【生産性を上げる会議術:第12回|最終回】創造性を高める企画会議の進め方
はじめに
盛り上がったけど、出てきたのはありきたりなアイデアばかり、そしてなにも実現できなかった。そんな企画会議をたまに見かける。筆者もそういう会議に参加したことがあるし、主催してしまったこともある。
こういう会議は時間が無駄になるだけでなく、参加者のやる気を著しく低下させてしまう。では、どのようにすればよいのだろうか。
今回は、創造性に関するさまざまな研究結果を踏まえながら、創造性を高める企画会議の進め方を紹介する。
テーマ設定
企画の成否を大きく左右するのがテーマ設定だ。テーマ設定によって、企画の通しやすさや、出てくるアイデアの質が変わる。そこで、まずはテーマ設定のポイントを整理しておこう。
違和感を深堀りする
そもそもアイデアはどのようにしてひらめくのだろうか。
第9回の「イノベーション疲れのあなたに哲学を」で紹介したが、科学的な発見の方法を論理的に研究した「科学哲学」によると、驚くべき事実を観察し、その理由を説明する仮説を立て、証明することによって科学的な発見がなされてきたという。
この驚くべき事実に気づくきっかけは、なんらかの違和感であることが多い。日常や仕事のなかで感じているちょっとした違和感を深掘りしてみると、論理的には説明のつかない驚くべき事実に気づき、それが発見のきっかけとなるかもしれない。よって、日頃から不思議に思ったこと、不満に思ったこと、驚いたことなどを記録しておくとよいだろう。
会社が目指している方向に合わせる
会社で企画をやる以上は、会社の方向性に合ったテーマでなければ、実現する可能性は低い。まずは、企画のテーマを会社が目指している方向性に合わせておく必要がある。
その際、コーポレートミッション・ビジョンや経営トップが示した中長期の方針などのキーワードを用いれば、大きく外れることはなくなる。
最近の社内の流行やトレンドに乗っかれば、企画の実現可能性が高まるが、あまりに短期的なトレンドに乗ると、企画が短命に終わってしまうため、テーマ設定の時点では、トレンドまでは考慮しなくてもよい。
ビジョンについて合意形成をする
では、会社が目指している方向性がはっきりしていない場合や、抽象的すぎてテーマとして機能しない場合はどうすればよいのだろうか。
その際は、ビジョンを具体化し、合意形成を行う必要がある。ビジョンを決める会議のやり方については、第4回「ビジョンを決める会議、どうやりますか?」をご参照いただきたい。
未来の時間を設定する
次に、テーマを設定する際は、数年先の未来をターゲットにするとよい。
たとえば、「3年後、当社コーポレートミッション『○○』を具現化する新規サービスの企画」のようなテーマを設定すると、いつだれがどうやってという細かい議論に入る前に、もっと大きなスケールで考えなければならないことを示唆し、発想が広がりやすくなる。
もし、新しさよりも実現性の高い企画を求めているなら、設定する時間をもう少し短く設定するとよいだろう。
人選
テーマが決まったら、次は、そのテーマを考えるに最もふさわしい人を選ぶ。人選のポイントは以下のとおりだ。
多様な視点を持った人を選ぶ
企画会議をする際は、同質な人を呼ぶより、異なる観点を持った人たちを呼ぶのがよい。
たとえば、自社の商品を企画するなら、商品企画部門の人たけでなく、営業や製造やアフターサポートの部門の人などを呼ぶと、売り手側の視点を広く捉えることができる。
ただ、自社の人間だけで話し合うと、これまでのビジネスのやり方や企業文化にとらわれがちで、それを逸脱するようなアイデアは出にくい。
そこで、もし可能ならば、自社の人間だけでなく、自社の顧客・自社の非顧客・別の業界で企画をやっている人などを呼ぶとよい。すると、買い手側の視点や別の業界の視点が加わり、刺激を与えることができる。
もちろん、これまでのビジネスのやり方を変えるようなアイデアは、そう簡単には実現できないため、絶対にやりきる覚悟を持っている場合に限られる。
観点の漏れを無くしたいなら15人以上必要
たくさんの人に企画に参加してもらえば、それだけ視野も広がるし、面白いアイデアも出てくる。
ある実験(外部リンク)によると、被験者を1人ずつ増やしながらユーザビリティーテストを行うと、15人くらいですべての問題が発見できたという。
つまり、ユーザビリティーのように注目さえすればだれでも気づくような問題でも、ある程度の人数がいなければ網羅的に洗い出すことができないということだ。
アイデアにおいても似たようなことが言える。ヒット商品のアイデアのほとんどは、ひと目見れば「なるほど」というものばかり。一度気づくと、なぜ自分がそれに気づかなかったのか不思議なくらいだ。
企画においては、そういう言われてみれば当たり前ということに気づくのが重要なので、たくさんの人に企画に参加してもらえば、それに気づく可能性が高まる。。
ブレストは5人以下で
他方で、6人以上でブレインストーミングを実施するより、1人1人バラバラにアイデア出しをした方が、質・量ともに高まるという実験結果もある(外部リンク)。
つまり、一概に参加人数を増やせばよいというものではなく、ブレインストーミングでアイデア出しをするなら5人以下でチームを分割するとよい。
実行のキーマンを選ぶ
次に、必須ではないが、企画を実現する際にキーマンとなる人がいれば、なるべく早い段階で声を掛けておいた方がよい。
他の人から伝え聞いただけのことを実現するのより、自分が企画したものを実現する方が、理解度も熱量も高まり、実行されやすくなるからだ。
場所・環境
創造的な議論をしたいならば、議論をする場所や環境にも配慮した方がよい。
天井が高い場所、低い場所を使い分ける
天井が高い場所では、抽象的・創造的な思考になりやすく、天井が低い場所だと具体的で注意深い思考になりやすいという(William Lidwell他、「要点で学ぶ、デザインの法則150」、BNN新社、2015年、カテドラル効果)。
この効果を利用すると、企画の前半では創造的な思考が必要であるため、天井が高い場所を選ぶとよい。また、企画の後半で詳細を詰める段階になると、天井が低い会議室を選ぶとよいだろう。
照明のポイントは朝明るめ、夜暗め
照明に関しても、配慮できることがある。ある研究(外部リンク)によると、朝2時間昼光照明環境に居ると、アイデア出しなどの知的作業においてプラスの効果があったという。他方、暗い環境はリラックス面で効果がある。
つまり、企画のアイデア出しをする際は、午前か午後の早い時間帯の日の当たる会議室を利用するとよい。
ランチの後が狙い目
ある研究(外部リンク)によると、1日のなかで、頭が冴えている時間帯よりも、ぼーっとしている時間帯の方が、創造性が発揮されやすいという。
人によってその時間帯は異なるため、一概にいつがよいとは言えないが、ランチの後は眠くなりやすい人が多いため、アイデア出しをするならその時間帯が狙い目だ。
なお、企画会議以外も含む、会議の人選・環境・時間については、第3回「会議の設計の仕方 人選・環境・時間編」にまとめたので、併せてご参照いただきたい。
会議の流れと運営
会議の流れや運営の仕方によっても、会議の雰囲気を変え、より創造的なアウトプットが出る確率を高めることができる
アイスブレイク
まずは、会議の本題に入る前に、参加者がしゃべりやすい雰囲気づくりをしておく必要がある。
初対面の人が居る場合は、自己紹介の時間を設けることが多いとは思うが、それを会議の本題の練習に使うとよい。
たとえば、会議の本題でアイデアを絵で描く予定があるなら、自己紹介も絵でしてもらうとよい。
自己紹介が必要のない間柄の場合は、「10年後の未来を表すキーワード」を洗い出すなど、普段と頭を切り替えて、柔軟な発想ができる準備を促すとよい。
まず「問い」から始める
第8回「アイデアが出ない時のファシリテーションのやり方とは?」でも紹介したが、まず「問い」を洗い出してみることで、視野を広げ、観点の漏れをなくし、新しい切り口が見つけやすくなる。
集中とリラックスを繰り返す
ある研究(ハーバート・ベンソン、『ストレスの効果を最大限に生かす ブレークアウト原則の科学』、December 2006 Diamond Harvard Business Review)によると、ストレスも創造性を高めるためには重要な要素らしい。
同研究によると、まず困難な問題に本腰を入れてしばらく取り組み、生産性の低下やストレスを感じ始めた後に、切り替えて休憩をし、リラックスすると、創造的なアイデアや問題解決の方法がひらめく「ブレイクアウト(ゾーン)」の状態になるという。
つまり、会議のなかにも集中をする時間と、リラックスをする時間を設けるのがポイントだ。
個人作業→共有
会議に集中を取り入れるためには、個人で深く考え抜く時間を設けるとよい。1人で煮詰まるまで考えることで、ストレスが一時的に高まる。
その後、各自のアイデアをグループで共有する時間を設けることで、リラックスを促すことができる。
このように、会議は「個人作業→共有」という流れで設計することで、参加者が創造的になりやすい状態をつくることができる。
コーヒータイムを設ける
アイデア出しの合間にリラックスの時間を作るためには、コーヒータイムを挟むのがオススメだ。アイデア出しをして、疲れ果てる前に、少し長めの休憩をとってコーヒーでも飲みながら雑談をしてもらう。
面白いアイデアは、会議の最中よりも、こういうリラックスした雑談のときに出てくることが多いため、その状況を意図的に作り出すとよい。
「仕事中にコーヒータイムなどけしからん」という雰囲気の会社の場合は、昼休憩の前後に会議を設定して、ランチでも食べながら雑談をしやすい状況を作るとよいだろう。
歩きながらアイデア出しをする
会議室を飛び出し、歩きながらアイデア出しをするのもオススメだ。ある調査(外部リンク)によると、ウォーキング会議を取り入れている人の方が、より創造的になれる、集中力が高まると回答する率が僅かに高かった。
東京都内のように人が多くて道が狭い場所でウォーキング会議をやるためにはいくつかコツがある。そのコツについては『ウォーキング会議実践ガイド』にまとめたので、併せてご参照いただきたい。
テンポよく進行する
創造的な会議を進行する際に大事なのは、テンポよく運営することだ。
テンポを早めることで、皆が1つひとつのアイデアについて深く吟味する時間をなくし、判断を先送りにすることができる。
アイデアの発散フェーズでは、細かい吟味や判断は不要とみんなわかっていても、時間を与えると余計なことを言い出す人が必ず出てくる。
テンポよく進行することで、そういう間をなくし、皆がテーマに集中しやすくなる。
テンポよく進行するためのコツは以下の通りだ。
1. オウム返しをする
進行役は相手が言ったキーワードをオウム返しする。相手の言葉を解釈して言い換えたり、要約したりすると、言い回しや解釈に齟齬(そご)があった際に、テンポが悪くなってしまう。
まずは相手の言葉をそのままオウム返しして、発言を受け入れたことを示すとよい。
2. 一方的な説明を長々としない・させない
1人が一方的に説明をする時間が長すぎるとだらけてきて、内職が始まり、テンポが悪くなる。
そのため、一方的な説明が長くならないよう、必ずタイムキーパーを設けて、時間がきたらそれがわかるようにしておくとよい。
3. 発言は必ず皆が見えるように書き留める
時間オーバーしているのに話し続ける人や、同じことを何度も繰り返し言う人が居るが、これは、自分が言ったことが理解されてないと感じる時に起こりやすい。
そのため、発言内容は必ず皆が見える場所に書き留めて、進行役がそれをオウム返しした方がよい。
立ち会議の時間を設ける
会議の雰囲気を活発にするには、立ち会議の時間を設けるのもよい。座りすぎによる健康被害(外部リンク)も報告されており、健康面でも立ち会議は有効といえる。また、立ち会議にすれば、長時間継続すると疲れるため、時間短縮の効果も得られる。
ブラッシュアップする
この時点で出てきたアイデアは、まだ思いつきレベルで、ありきたりなものや、実現性の低いものが多数含まれている。これらをブラッシュアップすることで、新規性や実現性を高めることができる。ブラッシュアップのポイントは以下のとおりだ。
異質を組み合わせる
ありきたりなアイデアでも、組み合わせを変えると新しい価値を発揮することがある。そして、異質なもの同士を組み合わせると、より新しく、これまでになかったものになる可能性が高い。
トレードオフを探す
あっちを立てればこっちが立たない、このような関係をトレードオフという。トレードオフの関係は、一般的には正しいのだが、一定の条件下に限って言うと、まれにこのトレードオフが解消することがある。
たとえば、ソフトウェアの開発において、工期を短縮しようとすると、品質を犠牲にしなければならないと信じている人も多い。この場合、今の仕事のやり方のまま工期だけを短縮すると、たしかに品質が犠牲になることが多い。だが、仕様やデザインを工夫することで、実現が簡単になり、かつ利便性も向上することがしばしばある。もし、そういったものが見つけられれば一挙両得なので、効果が大きい。
アイデアをブラッシュアップする際は、トレードオフの関係を探し、それを解消して一挙両得が狙えないか、一度は検討してみる価値がある。
逆にする
逆にして考えてみるのも、アイデアをブラッシュアップする際には有効だ。
たとえば、多くのスマートフォン・メーカーは大画面・高性能・高機能で勝負をしているが、超小型で電話とメールしかできないスマートフォンも登場しており、同社は小型・低性能・低機能で勝負をかけて、一定のポジションを得ている。
このように、逆にしてみることで、独自のポジションを獲得し、新たな活路が拓けることもある。
実行に結びつける
いかによいアイデアがたくさん出ても、それらを全部実行すればうまくいく訳ではない。本当にやるべきことだけに絞るのがポイントだ。その上で、確実に実行されるまでフォローをする。
多数決を多用しすぎない
まずポイントとなるのは、多数決を多用しすぎないことだ。
よいアイデアを絞り込むというと、多数決が思い浮かぶかもしれない。ただ、多数決はやや乱暴な意思決定方法のひとつであり、最終的に実行のキーマンが腹落ちしていなければ、うまく実行されず結果にもつながりにくい。
また、多くの人が賛同する意見は、よいアイデアである可能性は高いが、その分、すでにだれかがやっているありきたりなアイデアである可能性も高い。
このように、多数決は万能ではないため、多数決だけでアイデアを絞るのはおすすめしない。
やることを絞り込む
第10回「会議のたびに余計な仕事を増やさない方法」で紹介したように、他社の成功事例やビジネス書などで紹介されている成功の法則をそのままマネしてもうまくいかない。まず自社はどこで勝負し、どこで勝負しないのかを明確にすべきだ。その競争軸において、有効なアイデアのみに絞り込む必要がある。
自分の言葉で説明してもらう
アイデアが絞り込まれてきたら、次は実行に結び付けなければならない。最初から実行のキーマンを巻き込んでおけば、あまり苦労をすることはないが、他の人を巻き込む必要が生じた場合は工夫が必要だ。
あらたに巻き込んだメンバーには、それまでの検討の経緯や目的などを共有した上で、自分の言葉で説明できるまで理解してもらう必要がある。特に、実行を担う人の場合は、アイデアをそのまま押し付けるのではなく、現場の知恵を活かして、より具体化するとどうなるのか、もっとよいやり方はないのかといった観点で、その人にあらためて考えてもらうとよい。
阻害要因を取り除く
第7回「会議で決めたのに、なぜみんな動かないのか?」で紹介したように、アイデアはすばらしい、腹落ちもしている、しかし実行できないまま企画倒れに終わることが多々ある。
このような事態の原因としては、実行しようという力と逆方向の力が働いていることが多い。たとえば、「新しいことにチャレンジしよう」と言いながら、失敗した人を袋だたきにする文化を放置していたとすると、だれも新しいことにチャレンジしたがらないだろう。
このようにわかりやすいケースだとまだよいが、実際にはもっと複雑な阻害要因が潜んでいることが多く、その阻害要因を特定して取り除いていく必要がある。
まとめ
今回は、過去の連載を振り返りながら、創造的な企画会議の進め方について紹介してきた。
会議はムダだ、生産性がないなどとよく言われているが、人と人が集まって協創をする場合、直接会って話す以上のコミュニケーション手段は今のところ存在しない。
もっとよい手段がないのであれば、「ムダだ、ムダだ」と他人事のように批判をする前に、今ある手段を改善しながらベストを尽くすべきではないか。
本連載が、その一助になれば幸いである。
(株)共同通信社 b.(ビードット)より転載
※本記事は、2020/1/6時点で共同通信社の外部メディアに公開された記事を、許可を得て転載しています。