組織にはアホもいる。想像を超える価値につながる「ノリ」を生み出すCWOの役割
※本記事は、2020/1/10時点で外部メディアに公開された記事を、許可を得て転載しています。
大企業・大規模組織向けのクラウドサービスを提供するドリーム・アーツ。創業当初からCTOを務めた前川賢治は、2015年にその立場を自ら後進に譲り、大企業へ驚きと価値を生み出すCWO(チーフ・ワオ!・オフィサー)に就任しました。CWOとして生み出す価値、そしてドリーム・アーツに受け継がれる精神について前川が語ります。
失敗を恐れず、チャレンジを歓迎する組織の象徴としてのCWO
ドリーム・アーツ設立時のメンバー。代表の山本(中央)と前川(中央左)ドリーム・アーツは創業23年のベンチャー企業です。代表の山本孝昭と古くからの友人だった私は、マンションの一室から始まった立ち上げ当初から、苦楽を共にしてきました。
今でこそ数多くの大企業のお客さまと取引させていただいていますが、その過程では数えきれないほどの失敗に直面しましたね。
今思えば、根拠なく楽観的ですべてに甘いエンジニアであった私は、大企業で扱うデータ量やアクセス数が自分達の想定を超えて膨大で、まともにシステムを動かせずお客さまに多大なご迷惑をお掛けしたり、良かれと思ってやったことが原因でさまざまなトラブルを引き起こしたり。
失敗は数え切れないけれど、その都度真摯に対応し、学習して修正を重ね、組織としての知見やノウハウをストックしてきました。だからこそ、一歩一歩着実に進歩し、会社として成長できたと思っています。
2015年、私はCTOの役職を後任に譲り、CWOに就任しました。「CWO」とは何かといいますと、「チーフ・ワオ!・オフィサー」。ドリーム・アーツの「ノリ」を生み出す「アホの象徴」です(笑)。
失敗を元に修正して学習すること自体は絶対に正しい。ドリーム・アーツもそうやって成長してきました。しかし一方で、それがいつの間にか「過学習」となって、失敗することを恐れるあまりに、余計なことは一切せず、なにも挑戦せず、失敗しないことが最優先になってしまう可能性も。すると、組織のバランスが崩れ、一気に老朽化してしまうという側面もあります。
これを防ぐためには、チャレンジを歓迎する風土、「ノリ」を伝播させることが重要になるんです。
立ち上げ当初、ドリーム・アーツには知名度も実績もありませんでしたから、お客さまに「本当に信頼できるのか?」という疑いを抱かれることもありました。名刺交換さえしてもらえなかったことも多々あるなかで、普通の提案をしているだけでは、お客さまの信頼を勝ち取ることはできませんでしたね。
当時、私たちはシステム担当者の言う「こういうシステムをつくりたい」という表面上の要件に限らず、現場の業務内容を担っている人たちの想いを聞き、問題の本質を自分たちの頭で考え、お客さまの想定を超える「120%のプロトタイプ」を持っていくことを心掛けていました。
実際に動くものがあると、お客さまの反応も違うんですね。当事者として、ものづくりに巻き込まれてくれます。「前川ちゃん、惜しい!」なんて反応が返ってくれば、心のなかでガッツポーズしてました(笑)。
そもそも、なんの信用もなかったところから出発したわれわれです。お客さまがドリーム・アーツに期待していたのは「いわれた通りにつくること」や「間違えないこと」だけではなかったはずだと思います。
システムを超えたところから真のニーズを推し量る対話力や、想像を超えたワオ! なものを提示してこちらに巻き込む協創力といったものを評価されて、ドリーム・アーツはここまでお客さまに可愛がっていただいてきたことを忘れてはいけない。その象徴として、CWOという役職に私はいるのだと思います。
ちなみに、当時お客さまとしてお付き合いさせていただいた会社のほとんどは、20年たった今でも、われわれのお客さまとしての関係を継続していただいております。
激変のIT業界、クラウド時代に求められるシステムとは
ドリーム・アーツが変わり続けることを内外に示すため、2015年に前川(右)から石田(左)へCTOを世代交代近年、IT業界はクラウドの登場によって激変の時代を迎えています。サービス導入初期段階や、企業に合わせてゼロから開発するフルスクラッチのシステムを提供する場合は、「ノリ」が非常に重要で、場合によってはそれだけでも成功できたかもしれません。
しかし、クラウド化が進んだ今、サブスクリプションのビジネスモデルではお客さまに継続してサービスを利用していただくことが前提になります。
また、大企業ではシステムの担当者が最初からずっと変わらないということは、まずありえません。だから、導入時の担当者が入れ替わっても、安定して価値を提供し続けられるシステムでなくてはいけませんよね。
つまり、クラウド時代のCTOには、「ノリ」やアイデアといった属人的な要素だけでなく、今まで以上に安定したアーキテクチャを考える能力や、個社にとどまらず汎用的なニーズを解決するスキルが求められていると言えます。そういった能力は、私より当時開発本部長だった石田健亮の方が優れていると考え、CTOを譲ることにしました。
技術者である私や石田がやるべきことは、サービスのアップデートや新しい技術へのキャッチアップ以外にもあると思っています。そのひとつは、「QSS:Quick Start & Quick Success」の価値を提案することです。つまり、「速く始めて速く成功体験を積み重ねる」という価値を、お客さまに理解いただくこと。
ビジネスには「2:8の法則」というものがあります。案件でも制作物でも、最後の20%を完成させるために、全体にかかるリソースの80%を使っているケースが多い、という説ですね。
すべてが無駄であるとは言いませんが、必要以上に完璧主義の強い日本のシステム開発にも「2:8の法則」はあると思っています。しかし今の時代、時間とコストをかけて100%を目指し、必要以上に最後の20点にこだわる必要が本当にあるのか。
それよりは、20%の労力で80点をとることで、目まぐるしい時代の変化に合わせて素早く柔軟に対応した方が現場の生産性も向上するのではないか。
ただでさえIT人材が不足している現在、現場のすべてのシステムをIT部門がトップダウンで担い、運用するというのは、もはや幻想にすぎません。できるわけがない。
デジタル化の主役は、着実にIT人材から非IT人材へと移り変わっています。だからこそ、現場が自律的に使えるシステムや仕組みを追求すべきだと思っています。
もちろんセキュリティやIT統制などはIT部門が先導しなければならないし、業務の責任者は、多部署にわたる業務全体の効率や、業務の継続性のことを考えなければなりません。単に今現在の現場担当者が便利になったということだけではシステム導入が成功したとは言えず、関係する役割が、それぞれの異なる視点でうまくいったと思っていただくことが必要です。
現場が使いやすいUXやアーキテクチャを徹底的に考えるだけではなく、他社事例を交えながら大企業ならではの懸念点を払拭する。
私たちは時代によって変化するITの課題やお客さまの経営・業務課題に対し、愚直に真正面からぶつかってきました。そして現在、デジタルの民主化が求められています。そんななか、自分の思ったことをお客さまに直接ストレートに伝えることで、お客さまの考えや心に風穴を開けていくことも、私のCWOとしての役目のひとつだと考えています。
対話からの協創と意識共有
開発で最も大事にしているのは「現場主義」と「対話」大企業のお客さまによくある傾向として、部署間の利害関係が強く、部分最適でそれぞれがバラバラな方向を向いてしまうという課題があります。また、システムの利用者が数千から数万人規模にもなるので、サーバーの強度やセキュリティ面なども複雑になりがちです。
本社のIT部門担当者も現場の業務をすべて把握できているわけではないので、寄せられる要望をすべて聞き入れるだけでは本質的な課題解決につながるシステムにはならないものです。
大企業でのプロジェクトでありがちな、それぞれの議論がかみ合っていないような状況において、関係者が同じ方向を向けるようにプロジェクトの進め方を工夫し、プロジェクト全体を成功に導く提案ができるのも、ドリーム・アーツの強みのひとつです。
それを実現するために、われわれも、とにかく現場を見て、体験して、対話するということを大切にしています。そんななか生まれた取り組みが「現場100本ノック」です。
実際にシステムを利用する現場のお客さまの業務を体験すると、社員やスタッフがどのような想いで業務に取り組んでいるか、なにに課題を抱えているかがリアルに見えてきます。
とあるお客さまから、経営戦略に現場データを活用するため、BIシステム、つまり多様なグラフでデータを見える化するシステムの開発依頼をいただいたときのことです。どのようなBIシステムが有効かを調査するために、現場の意見をヒアリングしてみると、すでに現場の責任者がデータを収集して分析データを作成していること、また、現場ではどのような想いで分析レポートを作成しているかを知ることができました。
つまり、すでにBIシステムで実現したい情報は各部署が持っており、その指標やデータを全体で共有するコミュニケーションの過程に課題があったのです。
本社からはBIシステムをつくってくれと依頼されました。しかし、本当の課題はお互いに顔を見たこともない世界各国の担当者が、社内の文化を含めて、情報をタイムリーに共有できていないことだと思ったんです。
だから、現場責任者が作成する分析レポートを軸に、業務特化したコミュニケーションの基盤となるシステムのプロトタイプをつくって提案したんです。結果、全然BIではないシステムができあがりました。(システム名だけは最後までBIのままでしたが)
本社の想い、現場の想い。それぞれがまじめに一生懸命業務に取り組んでいるからこそ、立場によってバラバラな方向を向いてしまう。そこでドリーム・アーツがお客さまと真摯に対話して、現場を見て、ひとつの方向性を示す。業務課題の本質を解決するためにも、ドリーム・アーツは現場との対話を重視しています。
自分にとっての「計算外」を楽しもう。
CWO(チーフ・ワオ!・オフィサー)を務める現在の前川ドリーム・アーツをさらに大きく成長させるために、社内に繰り返し伝えていることがあります。
それは、「計算外のことはおもしろいぞ」ということ。
これまで積みあげてきたものを大事にするのはもちろん大事ですが、自分の計算通りに仕事が進んで、思い通りにキャリアが形成されるなんてことはまれだと思うんです。
振り返ってみれば、ドリーム・アーツでの私のキャリアも「計算外」だらけでした。くだらないことでは、代表の山本の指示で代官山の美容室に行き、爆睡して目が覚めたら、髪の毛が鮮やかなオレンジ色になっていたこと。しかし、自分では絶対に選択しないようなことを、実際にやってみれば意外に悪くはないのです。それをきっかけに予想外の交友関係が生まれて、今でも意外な人たちとの交流があったりします。昔から山本は僕のプロデューサーでもあるんですよ(笑)。
自分の思いもよらないところでこそ、成長や出会いは生まれます。一見関係がないことでも、点と点がつながって、意味のある線を生むことがあります。これが一番ワクワクする瞬間ですね。
自分の境界線を自分で勝手に決めつけるのはもったいないと思います。
たとえ自分が望んでいることではなかったとしても、自分では絶対に選択しないようなことを経験できると思って、その状況を楽しむぐらいでいれば、いつか点と点がつながるという感覚が必ずわかるはずです。
若く優秀なエンジニアであるみんなには、その分野で優秀であるがゆえに、知らず知らずのうちに自分の視野を狭めるようなことにならないように、騙されたと思っていろんなことにトライしてみてほしいです。そして、それを楽しんでくれたらなと。あなたの会社にはCWO という「アホの象徴」もいるのだから(笑)。
これからもCWOとして、挑戦を歓迎する組織として環境を整えていくのはもちろん、そういうものが生まれる風土をつくっていきたい。ドリーム・アーツの「ノリ」を体現する存在でありたいと思います。
前川がなぜCTOの座を譲ったのか、メディア「エンジニアtype | 転職type」の記事として取りあげられています。ぜひご覧ください。