フランス発のエンジニア養成機関「42 Tokyo」へドリーム・アーツが協賛する理由とは?
みなさんは「42 Tokyo」をご存知だろうか。
フランス発のエンジニア養成機関で、アメリカ・シリコンバレーをはじめ、世界各国に展開している。
学費完全無料、経歴不問、「問題解決型学習」をもとにした革新的なカリキュラムを用意し、プログラミングを学びたい世界中の学生がこの「42(フォーティーツー)」で日々スキルを磨いている。
2021年11月、ドリーム・アーツはこの「42 Tokyo」に協賛を開始した。
そんな革新的な「42」の考え方に共感してドリーム・アーツからの協賛を決定したのがCTO(Chief Technical Officer)の石田健亮だ。
なぜ「42 Tokyo」に協賛したのか、その想いを石田に聞いた。
「42 Tokyo」とドリーム・アーツの共通点は「協創」
ドリーム・アーツはなぜ「42 Tokyo」に協賛したのか。
その答えとなるキーワードのひとつが、ドリーム・アーツが掲げる「協創」。
ともに力を合わせ協力して創造する、それが「協創」の概念である。
前述のとおり、「42 Tokyo」の学費は完全に無料だ。では、なぜ無料にできるのか? 基本はスポンサーの支援で運営が成り立っているが、数々のスポンサーが集まるには理由がある。そのカリキュラムが極めて特徴的なのだ。
驚くことに、なんと「教師」という存在が無く、もちろん「授業」という形式もない。
生徒同士が教え合う「ピア・ラーニング」を採用しているのだ。さらに「問題解決型学習」というスタイルで教科書や授業はなく、多種多様な課題があり、それを学生自身が選び、課題をインターネットで調べたり、他の学生と協力して解決方法を考えたりするという、なんとも大胆な仕組みだ。
石田が「42 Tokyo」に惹かれたのは、学生同士の「協創」をベースにカリキュラムが考えられているというところだった。
「ドリーム・アーツのコーポレートスローガンは『協創力を究めよ』。『42 Tokyo』においても、ともに教え合う“協創”の文化がある。協賛する一番大きな理由はそこだし、エンジニアである生徒に対して我々なりに協力できることがあるのではないかと思った」
ドリーム・アーツは「協創」を核にしたコーポレート・ミッションとスローガンを掲げている。この「協創」という価値観が社員全員に浸透しており、文化として根付いている。
採用においても、「この人は協創できるかどうか」を評価項目の一つに入れているほどだ。
ドリーム・アーツと「42 Tokyo」には共通の価値観である「協創」を通して化学反応が起きる可能性を感じ、石田は協賛を決断した。
「42 Tokyo」における協創「ピア・ラーニング」
「42 Tokyo」において「協創」はどのように育まれるのだろう。
「協創」が前提となっている特徴的な仕組み「ピア・ラーニング」について触れておこう。
ピア・ラーニングとは前述したとおり、学生同士が教え合うという先進的な教育方法だ。
半強制的に他の学生が書いたコードをレビューし、逆に自分のコードは他の学生にレビューされる。
課題をどう理解したか、その理解に基づきどのような解法を試みたか、どのような例外を考慮したか、自信がないところはどこか、など、整理してレビュアーに説明することで自分自身の理解促進につなげる。
お互いに自分で見つけられないエラーを探し合ったり、知らないテクニックを教え合ったり、ともに解決策を議論したりしながらお互いを高め合うプロセスが自然と生まれる。
また、同じ問題でもさまざまな解き方があることを知り、「正解は一つではない」ことを体感する。
このように、自分ひとりだけではなく仲間と共に試行錯誤を繰り返すことによって、エンジニアとしてエラーを出しても落ち込まないタフさと独創的なチャレンジができる人材が育っていくのだ。
このような学習方針や仕組みを聞くと「42」はただ単にエンジニアにおける「スキル」を習得するだけでなく、「エンジニアの根っこ」を育成していると感じる。
「42 Tokyo」に通う学生の生の声を紹介しよう。
「自分の間違いが恥ずかしくて先生に答案を見せるのも苦手だったが、今はオープンに問題解決し合うことが楽しいと感じている」
「高校まで進学校に通っていたが、自分がそれまで受けてきた教育がこんな受け身だったのかと驚かされた」
学生同士はお互いに本名・フルネームではなくアカウント名で呼び合っているという。
チームの仲間が年上か年下かもわからないようだが、まったく気にせずにフラットな空気なのがなんとも今っぽい。
ドリーム・アーツが「42 Tokyo」に提供できること、エンタープライズITの現場体験
「42」においては、コンピュータの基礎やプログラムが動く仕組み、そして協創の大切さを学ぶことはできる。
が、「本物の現場」という観点で別の環境を提供することができれば、生徒たちがさらに成長するきっかけになるのではないだろうかと石田は考えた。
「私たちはBtoB、さらにエンタープライズの世界にいる。日本を支える大企業にサービスを提供するというプレッシャーのかかる立場において、技術に向き合うとはこういうことか!ということを体験してもらいたい」
そんな想いで開催したのが、先日「42 Tokyo」の学生向けにドリーム・アーツが主催したイベント、パフォーマンスチューニングコンテスト「Tuning the backend Contest」だ。
- パフォーマンスチューニングコンテストの内容
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ドリーム・アーツが作成した課題は以下のようなもの。 クライアントは、建設機械のレンタル業を全国で営む大企業である株式会社Celloグループ。
参加者はSaaS企業であるドリーム・デビーが提供する、本番運用から3ヵ月経った現場状況報告サービス「Qspin」の「パフォーマンス改善チーム」として42時間のメンテナンスに取り組むことになる。
運用されたサービスのパフォーマンスが低く、営業やサポートは謝罪の毎日を送っているなかで、緊急メンテナンス期間が取れたというエンジニアにとっては胃が痛くなるような設定だ。
ドリーム・アーツは本コンテストの企画・協賛・メンタリングを担当。その様子をレポートしたものがこちらだ。
https://www.dreamarts.co.jp/news/column/col220531/
このコンテストで意図したものは「プログラミング」という行為の先にある「仕事」が持つおもしろさを提供することだったそうだ。想像を超える難問、胃が痛くなるような設定、42時間ぶっ続けでのメンテナンス、「問題を全員で取り組む」ことをどう実現するかの試行錯誤。
最終的にはすべてのチームが課題を提出し、結果は大きな差がついた形となったが、このコンテストの目的は能力の違いを測ることではなく、プロのエンジニアとしての体験ができたかどうかが重要なポイントであった。
「42 Tokyo」にて講義する石田
知識が多い=強いエンジニアと言えるかというと決してそうではない。仕事=お客さまがいる現場において未知なる課題に直面することは多い。本質的な問題を分解して、協力しあってひとつ一つを解決する姿勢こそが「強さ」につながる。
今回のコンテストで、メンターを務めたドリーム・アーツのメンバーも、知識を吸収して協力しながら難題に立ち向かう生徒たちの姿に刺激を受けたようだ。
今回のドリーム・アーツと「42 Tokyo」のコラボレーションによって、「協創」というキーワードをベースに双方に取って新しい価値を生み出せたのではないだろうか。
エンジニアの育成で日々感じること
ドリーム・アーツは自らのプロダクトを開発している企業である。
社会課題をどう解決するか、自分で考えて、具現化して、世の中に出していく。CTO石田はこの「0から1を創造する」ことがエンジニアの根っこには必要と考えている。
しかし、「お客さまがこう言っています」「仕様書はこうです」と、自分の意見が「0」のエンジニアが少なからず存在するという。
「『自分が作りたいから作る』はず。魂のこもっていないプロダクトは売れない。
そもそも何を作ろうか、世の中には何が求められているのか、興味関心を広げていってほしい」
お客さまに、「どんなものが必要ですか?」という御用聞きでは結局皆が迷走してしまう。 目の前のお客さまは大事だが、思考停止、受託体質ではお互いにハッピーになれない。
また、今の日本においては、エンジニアのキャリアに関する振れ幅が小さいことも感じているという。
石田が「42 Tokyo」を応援するもう一つの大きな理由は「エンジニアはだれもが目指せるキャリアである」という門戸の広さだ。
「今の日本でのエンジニアの“王道のキャリアではない人”に、『42 Tokyo』を通じてドリーム・アーツはフォーカスを当てているのかもしれません。
たとえば、哲学を学んできた人がエンジニアを目指すことがあってもいいだろうし、さまざまな事情で大学の専門的な教育を受けていなくてもエンジニアの素養(+情熱)が備わっている場合もあるでしょう。キャリアチェンジとしてのエンジニアという選択も十分あるはずです。
硬直した日本の教育事情とそれに伴う就職・採用活動の画一的な在り方に抗って、眠っている才能や、出直したいという情熱のようなものを掘り起こして多彩な人材の獲得を目指すといった試みであるとも思います。
イノベーターとしてのエンジニアの原石を発掘できれば最高ですし、なによりも人材の多様性が『協創』の必要条件ではないかとも考えています。
このような活動から私たちのミッションに共感してくれる仲間が多く集まって来てくれたらうれしいですね。」
と石田は語る。
ドリーム・アーツに入社する若手エンジニアのレベルは年々上がっているという。
石田は「自己研鑽せよ」というメッセージを常に社員に発信している。特に最近の若手はプロフェッショナルとして自律的に学習し、建設的対立をも厭わない骨太なエンジニアが増えてきたと感じるそうだ。
「ドリーム・アーツのエンジニアカルチャーをこれからも育てていきたいし、外部に対しても良い影響になるよう積極的に働きかけていきたいですね。」
今後も「42 Tokyo」とドリーム・アーツの協創は続く。
「42 Tokyo」で学んだ後、ドリーム・アーツに入社した渡邊さんに追加インタビュー
Q
渡邊さんは文系出身ということですが、なぜ「42 Tokyo」にJoinしたのですか?
A
私は元々PCやゲームが好きでITは身近な存在でした。しかし大学の専攻を考えるとき、ITに関連する進路とは決めていませんでした。
大学4年間で進むべき道をじっくり考えようと思って、早稲田大学の社会科学部に入りました。
社会科学部はビュッフェみたいな学部で経済、社会、法学など広い分野から興味の赴くままに授業を選択できる学科で、じっくりと考えることができました。
42 Tokyoで学んだ後、
ドリーム・アーツに入社した渡邊さん
「42 Tokyo」を知ったのは何かのニュースサイト。「挑戦したいすべての人に質の高い教育を」というコンセプトが尖っているなあと感じました。
でも、そのコンセプトに共感しつつも少し懐疑的ではあったんです。
高校までの学びとは別方向で、アクティブラーニング(教員の一方的な講義形式ではなく、生徒が能動的に考え学習する)の方向性かなと予想はしていたんですが、実践するのは難しいと思っていたので、実際行って確かめてみようという気持ちも少しありました(笑)。
僕もプログラミングの基礎は身につけたいと思っていたので、方向性と興味が一致していた。しかも無料でリスクは0!「やらない理由はない」という気持ちで申し込みました。
Q
実際「42 Tokyo」に入ってみてどうでしたか?
A
入って初日。フリーアドレスだったので、まずは適当なところに座ってPCにログインすると、そっけない課題文が書かれたPDFが用意されている。しかし情報量が少なくてよくわからない…。そこに書いてあるのは「まずはGoogle先生に聞きましょう。わからなければ左の人に聞きましょう。それでもだめなら右の人に聞きましょう」(笑)。
元々そこまでフレンドリーにコミュニケーションをとるタイプではなかったんですが、声をかけざるを得ない状況にいきなり追い込まれるんです。「隣のお兄さん怖そうだなー…」と思いつつ勇気を振り絞って声をかけました(笑)。
「42 Tokyo」では「協創することが前提」でデザインされている。これは衝撃的でした。
Q
「ピア・ラーニング」は実際やってみてどうでしたか?
A
自分の書いたコードを他の人にレビューしてもらうのですが、レビューの指示には、レビュー対象は書かれているものの、どのような観点でレビューするのか、どうやって確認するのか、何が正しいかなどの情報は一切記載がない!しょうがないのでレビュアーと共に試行錯誤です。
作成した際の想いや問題文の解釈などお互いにコミュニケーションを取りつつレビューしてもらいました。
とても新鮮だし、色々な観点があるということが気づきにつながりました。アウトプットすることで自分のなかにある想いにも気付くことができました。
Q
「42 Tokyo」にjoinして何か変わりましたか?得たことは?
A
意見を出すことに物怖じしなくなりました。発言しないと何も始まらないので。
人と「協創」することが当たり前のような感覚になりました。
全体を通して「とても楽しい!」の一言。毎回の課題は難解なんですが、能動的に学習して仲間と一緒に成長していく喜び、達成感。
これは他ではなかなか味わえない経験でした。
Q
「42 Tokyo」で学んだ後、ドリーム・アーツに入社したきっかけは?
A
一番響いたのは「デジタルの民主化」という考え方です。
私自身は元々文系ですが、今回「42 Tokyo」にJoinしたことで、エンジニアという道も開けました。デジタルのパワーは一部の専門家だけでなく、もっとさまざまな人が恩恵を受けるものだと思います。
サービスを提供する側としてこの考え方を広めるということにとても共感できました。このような世界を創造することに自分も関わりたいと思ったのでドリーム・アーツに入社を決めました。
Q
将来どんなエンジニアになりたいですか?
A
知識、経験、技術全てにおいて頼られるエンジニア、社会に影響を与えるエンジニアになりたいです。
実は「42」の存在を知らなかった私ですが、調べれば調べるほど面白い教育機関です。そしてドリーム・アーツの価値観とのシンクロ率が高い!
CTO石田は長年エンジニアの育成に知恵を絞りつつも、日本におけるエンジニアキャリアの現状や、「これを成し遂げたい」という想いが希薄なエンジニアが増えていることに危機感を感じています。そんなこともあり石田は「尖ったエンジニア」を熱望していますが、この「42 Tokyo」にはそんな尖りまくった熱いエンジニアがたくさんいるのだろうなと想像します。
「42 Tokyo」で学んでドリーム・アーツに入社を決めてくれた渡邊さんの今後の活躍にも期待大です。